エリザベスを探しています

花 エッセイ

「犬がいなくなったんだよ」

今から20年以上前、まだ私が独身で主人と付き合っていた頃の話です。
仕事で住宅街を歩いていた時のこと。一人のおばあちゃんが何かを探すかのようにあたりをキョロキョロ見回していました。

どうしたんただろう。

そう思って声をかけると「いなくなっちゃたんだよ」と困った顔。

「何がいなくなったんですか?」

と聞くと、

「犬がねぇ」

とのことでした。

当時の私は犬が好きで、ちょうど時間にも余裕があったので、

「じゃあ、一緒にさがしますよ」

とお手伝いすることにしました。犬の特徴を聞こうと思い

「大きい犬ですか?」

と尋ねると、

「そんなに大きくないよ」

との返事。なるほど。小型犬か中型犬かなと、考えながら一緒に探し始めました。

しばらくすると、おばあちゃんがか細い声で呼び始めたのです。

「エリザベスー!」

「エリザベスー!」

私は心の中で少し驚きました。

エリザベス。

なんて立派な名前なんだろう。きっと血統書付きの洋犬なんだろうな。白くてフワフワしていて、上品な雰囲気の犬かもしれない。

当時の私は、そんな姿を勝手に想像していました。

すると。

植え込みの向こうから、のそのそと現れた一匹の犬

柴犬でした。

しかもちょっとふっくら体系。

さらには足を少し引きずりながら歩いている。そして、おばあちゃんが嬉しそうに駆け寄ります。

「エリザベス!どこ行ってたの!」

私は思わず心の中で叫びました。「お前がエリザベスか!」

あの日の光景は、今でも妙に鮮明に覚えています。今思えば、犬の名前何て飼い主の自由です。

柴犬がエリザベスでも何もおかしくありません。それなのに私は、名前を聞いただけで勝手に上品な洋犬を想像していました。

人は意外と、自分でも気づかないうちに思い込みをしているものなのかもしれません。

まとめ

あの日以来、私の中で「エリザベス」という名前は、」王室、貴族ではなく、足を引きずりながらのそのそと歩いてくる柴犬の名前になりました。

人生には忘れられない出会いがある。でもまさか、その相手が柴犬のエリザベスだとは、当時の私は思ってもいませんでした。( ´∀` )

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